今日は珍しく梯子です。
でも、ギャラリーならよくある、かな。これが美術館の、となるとまずは不可能なのですが。各作品とじっくり向き合いたいから、1日に多量の作品をむさぼりたくないのです。
足繁く通わせて頂いている写真専門ギャラリー "POETIC SCAPE" にて開催中の大洲大作展『Afterglow』を堪能した後、県境を越えて矢島満夜さんの展示を見に青葉台まで移動。
大洲さんは、建築家のEさんが私にFB上で紹介してくださった写真作家。一口に写真といっても本当に色々な系統がありますが、大洲さんが制作なさっているのは、コンセプトをかっちり決めてその枠内でひたすら積み上げ洗練させてゆく美術寄りの写真(事実、大洲さんはさいたまトリエンナーレ2016の参加アーティストでもあります)。
より具体的に言ってしまうと、車窓からの風景を(おそらくはシャッター速度を極度に落として)ひたすら撮り続けていらっしゃるのですが、今回展示されている作品は、何と地下鉄の窓から撮ったもの。窓外にあるのは壁とライトぐらいなので、結果、できあがった写真は、黒い背景の上に白に近い色の筋が幾本か走っている感じになります。
現在、美術作家としての写真家の場合はプリントされた写真の販売が主たる収入源であることが多いようです。そんな訳でギャラリーにはばっちり素敵なプリントがそれなりのお値段で並んでいましたが、私個人としては、地下室で行われていた、透明の板の上での写真スライド上映の方がしっくり来ました。紙に印刷されたものは発光していないので、被写体が何であるかを知らなければ白い墨で書かれた書のように見えるのです。だからこそ被写体が抽象化されることになって面白い… といえばそうなのですが、どちらがきれいかと訊かれればスライド上映に軍配を上げるかな、と。
加えて、プリントにはない具象的なイメージがスライドに含まれていたのも印象的でした。ぶれてほとんど溶けたようになってはいるのですが、写っているのは駅のプラットフォームだ、と、それでも何となく分かる写真。Border/境界好きとしては、具象と抽象の境で宙吊りになっている、フランシス・ベーコン作品にも似たこのひとかけらの映像は、何ともそそられるものでした。
(あ、こちらは大洲さんの作品とは関係ありません。ただ、私が今日見つけた「境界」を挙げただけです 笑)
そんなことを感じながら地下室でうっとりとしていると写真新世紀グランプリ受賞者でもある写真家の熊谷聖司氏がいらっしゃり、しかも…… お声を掛けてくださいました。2、3度お目にかかっただけなのにばっちり顔を覚えていてくださったことに感動。
熊谷氏はその後大洲さんととても楽しそうに談笑していらっしゃいましたが、私は、時間も押してきたので1階に上がり熊谷氏の写真集 "Each Little Thing" を立ち見(笑)。
熊谷氏にとっての愛おしい/欲望する瞬間をひたすら集めたようなこの写真集は、コンセプトやテーマの縛りがきわめて緩いものです。それでも素晴らしい作品に仕上がっているのはひとえに熊谷氏の写真力の賜物なのでしょう。ギャラリーのオーナー、柿島氏が「熊谷さんのスナップ写真の腕前は天才的ですからね」とおっしゃっていましたが、本当にその通りだと思います。
矢島さんの展示は、この冬(or 春?)発売された写真集 "Quiet Planet" からの抜粋でした。
ゆえに、知っている写真との再会という感じにはなりましたが、それでもやはり電子媒体で見るのと紙で見るのとでは趣が違うし、カフェでの展示だったのでくつろいだ気分で鑑賞することができたのもよかったです。
写真集の表紙になっていた写真はもちろん美しかったのですが、私は意外と
この左端の写真のエロティシズムにぞっこんだったりします。
とはいえ、矢島さんの写真の醍醐味を挙げるなら、やはり反射や透過、そしてそれらが織りなすレイヤーの美しさや不思議さということになるのでしょう。
あと…
余談ですが、私も参加したCRPについての記事が載っている雑誌『コマーシャルフォト』が会場に置かれておりましたので、こちらもお見逃しなく!
(あ、私の写真集の表紙も掲載されてるっ♪)