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Miho Yamazaki

もっとサテライトする_2018F


昨日はこの2か月ずっと取り組んでいたことを終え、MOTサテライトSatellite 2018秋FALLに行ってまいりました。今回のblogはその軽い報告となります (←軽い、というのは、まだ頭脳疲労が完全には癒えていないからです 笑)。

同イベントは、休館中の東京都現代美術館が、収蔵作品や収蔵作家の方による新作などを、同館のある清澄白河の街中にて展示するというものです。2018年秋期のキャッチフレーズは「うごきだす物語—To become a narrative」で、土地の記憶を喚起させる作品が多く展示されていました。ただ、私としては、作品と物語性の結びつきよりも作品と環境との結びつきの方にいっそう惹かれたかもしれません。江戸〜東京のウォーターフロントの歴史は、私も、日本橋川の動画を撮っていたときに少し調べたのですが、地形に根ざしている部分が本当に大きいな、と (もちろん、その一方で、清澄白河を流れる小名木川が人口河川であることに示されているように、人が地形を変えたりもしているわけですが)。それゆえ、作品はしばしば、その向こうに人と環境との関わりが透けて見えるようなものとなっていて、先日訪れたギャラリー、EUKARYOTEで行われていた展示、paranatureとも通じるものがありました。周囲があって成立する主体のありようを感じさせる、近代的自己とはまた別のものに根ざした制作のこのようなtrendは、現代人の私には心地よく、かつ示唆に富んだものでした。そういえば、ひたすら日付と天気を綴る「量子詩」で有名な詩人の松井茂氏も、今回の出展作家の一人である宮永愛子が好きだとおっしゃっていたような。

一見コンセプチュアルではないのですが、それが最も分かりやすかった作品の一つが、その宮永のインスタレーション、「Strata」。

先述した小名木川付近では、かつては、水運が盛んだったこともあり製本所が軒を連ねていたそうです。そうした歴史に基づき、実際に製本所だった建物の一つで展示された宮永作品では、川の流れを模したライトの上に、制作時の土地の空気を抱き込んだ泡入り硝子でできた本が、浮かんでいるかのように並べられています。ライトの端には製本に使っていた古い器具も置かれていて、4次元的な時空間が押し寄せてくるのが感じられます。さらに、展示会場の右奥、昔エレベーターであったところには、ナフタリンでできた時計も。ナフタリンは防虫剤などに使われる物質で、時間とともに溶け消えるものです。針の部分だけは金属製なので、会期が長ければ最後には針だけが残される…… はずなのですが、今回は、残念ながらそこに至る前に会期が終わってしまうとのこと。針以外の全てを失った時計は、きっととても美しいに違いありません。

このように感覚に迫る作品を制作する宮永愛子ですが、実は、作品に添える文章や、文章と作品との距離の置き方も巧かったりします。今回の作品のステイトメントも、やはり絶妙でした :

江戸時代に作られた運河が今も残るこの界隈。

大潮の日の干潮になると船がようやくくぐり抜けられるという橋もある。

この夏のある大潮の日に船に乗り、水の上から街を眺めてみた。

頭をかがめながらいくつかの橋をくぐり、海まで出てまた別の流れへ。

生活のすぐそばでずっと前から繰り返されてきた、かつての人やものの往来。

今も潮は変わらず往来を続けて、この土地の暮らしに見えないリズムを刻んでいる。

宮永作品とはここでひとまず別れを告げて、他の作家の作品もざっくり紹介致します。

日傘のデザイナーでもあるひがしちかさんの作品。イミテーションプリント (掛けられている壁をimitateしています) が施された布で、壁の上の書道作品も、実際の半紙ではなく布にプリントされたもの。密かに、会場である清澄白河に所縁のある人物の名前が入っているのが面白かったり…… あの間宮林蔵の墓もこの界隈にあるそうです。

こちらは、東京都写真美術館でも出展されたことのある鈴木のぞみの作品。窓や扉に写真イメージが焼き付けてあるのですが、写っているのはその窓や扉から見える風景。

上の写真で扉に写っていた階段の実物がこちらです。

窓の端に見える車は、もちろん、写真右下端の車と同じもの。

ごちらは、かつて窓から見えていたはずの光景。白河二丁目町会会館という肩書き (?!) を持つこの建物は、祭の折、山車の出発地点となっていたそうです。そんな会館ですが、近々壊されることが決まっているそう。この作品は、ゆえに、建物に刻まれた歴史へのオマージュであると同時に、建物に捧げるレクイエムでもあるのでしょう。

作品形式はがらりと変わりますが、ここからも同じく鈴木氏の作品。この世界に存在する穴をピンホールとし、穴の奥に感光紙を置いてピンホールカメラの要領で穴の外の風景を定着させるというもの。自分が世界の穴になった気分になれます (謎)。

鰹節削り器!

鈴木氏が撮影場所に選んだ穴の数々がスライドで見られるようになっています。世界は穴に満ちているのだな、と改めて……

他にも気になる作品はあったのですが、今日はこれにてnot 筆 but キーボードを置かせて頂きます。末筆ではございますが、東京都現代美術館のボランティアの方に、この場を借りて改めてお礼申し上げます。適切な距離感×tempo×丁寧さでご案内してくださったお陰で、いっそう充実した鑑賞体験をすることができました。行った昨日が最終日だったのですが、駆け込んでおいて本当によかった!!

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