私が、横木安良夫氏が主催するFacebookグループ「SNAP BACKPHOTO」に加入してから早数か月。ついにこのグループに属している人から有志を募り、後ろ姿写真集を発刊する運びとなりました。参加者は私を含め約160名、集まった写真は実に406名!
絶対に参加したい、と思っていましたが、実は一抹の迷いもありました。私が今まで撮った「まぁ許せるかな」ライン以上の写真を振り返ってみると、人物の入っているいわゆるスナップは、実は少ない。人物が入っているとしても、目当ての人物に意味を持たせるというよりは「群衆」に興味を覚えて撮ったものの方が明らかに多いのです。
(この辺り、実は弱みにもなり得るところであって… かつて文学に入れ込んでいた頃に好きだった作家の1人にメーテルリンクがおり、彼は各登場人物に個人としての厚みを持たせることを、おそらく決してしない作家だったのですが、そのような作品はよほど作る人に力量がなければ、魅力ある作品として成立させるのが難しいと思うのです。人物のキャラで引っ張ることができないので。そしてこれは文学だけでなく映像でも同じだと思います。被写体がすさまじければ、それだけで映像—静止画であれ動画であれ—はかなり魅力的になる)
とはいえ、参加することでできるつながりというのもありますし、いくら自分では「自分の作品としてどうなの?」と思っていても人の見る眼は違うということもありますし、横木氏もおっしゃるとおり、数十年のスパンで見れば、これらは2000〜2010年代の貴重な風俗資料となり得る訳です。
(写真を)出さない手はない。
昨日(8月14日)はその編集のためのワークショップ。
作業は写真をグルーピングするところから始まりました。横木氏の後輩かつ愛弟子かつ仕事上の素晴らしいパートナーである五味彬氏の指示をベースにグループ分けの方法を決めていきます。具体的には、カラー/モノクロ、縦/横と大雑把に分けたうえで
・ そもそも構図が決まりすぎるほど決まっているもの
・ 縦の直線が要となるもの
・ 横の直線が要となるもの
・ 曲線や円弧が要となるもの
・ 色が似通っているもの
・ 海(昼の海/黄昏れている海/港っぽい人工の海)を背景とするもの
・ 街を背景とするもの
・ 交差点や街路を背景とするもの
・ 神社などを背景とするもの
・ 祭を撮ったもの
などに分類していきました。
この作業を五味氏や諸先輩方とともに進めていくだけでも得るものは多かったのですが、これらのうちの上3項に絡み、黄金分割についてのミニ授業を開催して頂き、かなりお得な気分でした。
今ではもう古びてしまったセオリーかもしれませんが、昔のデザインのセオリーに、写真を縦線で3分割して、その線に乗るように中心となる被写体を置くのがよい、という説がありました。ただ、それはあくまでデザインに使う写真の話。文字やキャプションなどが余白に入ったときにバランスがよくなるように、という狙いがあったようです。写真で重要なのは、むしろ横線による3分割と上下左右の中心線。
地平線や水平線を配置するときに下から1/3または2/3の場所に配置するのが基本形であり、2/3を選ぶか1/3を選ぶかどうかは空をメインにしたいかどうかによる、というのはすでに知っていた話ですが、「決まってる!」と感じられる作品は縦および横の2等分線で4等分したときに、それらの区画それぞれが1構図として成立するという話は私にとってthe 「初耳学」。
また、黄金分割以外にも、被写体となっている人物の視線の向きによって写真集をめくる人がページを次へ繰ろうとするか、また戻ろうとするか、あるいは手を停めるかが決まる、というのも、商業カメラマンであればご存じの方も結構多いのかもしれませんが、面白い話でした。
今、こうしたグラフィック的基礎知識が作家として「やっていく」うえで役立つものなのかどうかは、残念ながら分かりません。とはいえ、ただ「やっていく」以上のことを考えたとき、たとえば奈良原一高や鈴木理策などの人々がそれを見事に踏まえているように思われるのも事実です(奈良原は本当に神…)。
踏まえただけでは決していい写真にならないのも、また、事実なのですが。
いずれにしても、日芸写真科および篠山紀信氏(※ 横木氏は篠山紀信の直弟子なので、五味氏は孫弟子ということになる)仕込みの伝統的写真教育の一部を譲渡して頂き、大満足でございます♪
そうして組み上がったのがこれ。どうやらまた、赤松氏の写真が表紙になりそうです。「また」というのは、氏はアマチュア写真コンクールの類で賞をほぼ総なめにしていらっしゃる方だそうで、キャッチーなグラフィックを作り出す/作り込むセンスがあるのだとか。確かに映えるなぁ…
ところで、今回のワークショップに参加して、私自身の写真は(色であれコントラストであれ)抑えめなのだということが、うすうすは感じていたのですが、改めて分かりました。写真調整に使っているモニタの性能がよいせいなのか、実際私の目がある意味で敏感すぎるせいなのか(かなりの近視である反面、色彩や明暗の判別能力は比較的高いようです)は分かりませんが…
普通に考えれば、写真を含む視覚芸術やデザインを手がけるとき、視覚は敏感であればあるほどよいような気がしていたのですが、逆に、色弱のデザイナーの方が得意な色彩感覚を活かしていい仕事をしたり、色盲の写真家の方が色彩に惑わされず被写体のフォルムを徹底追求したりしているのを見聞きすると、感覚認識は、過剰であれミニマムであれ、それは強みにも弱みにもなると改めて感じました。
最後に、
優しい写真家のお姉様、芦田みゆき氏の個展がもうじき始まります! 何か凄そう… 「南南東」? さすが詩人(芦田氏は写真家であり、詩人でもあります)、言葉選びにもセンスが光ります(^^)
美術展のreviewも書こうと思ってはいるのですが、どのみちここには詰め込みきれない… またいずれ項を改めて、と思っております。
では、再見! (←なぜか中国語)