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Miho Yamazaki

フェルメール的


フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展に、先日行ってきました。現代の突端ではなく近代が花開きつつある頃のアート(あ、もしかして美術館のある六本木ヒルズの敷地内がチューリップだらけだったのは「オランダ」だからなのかも!)。

17世紀、オランダでは風景画、肖像画、静物画、風俗画など、今までハイなものとされていた宗教画や歴史画とは異なる、俗なる絵画が隆盛を極めます。それはおそらく、市民階級が急成長のさなかにあって、「いつかのどこか」ではなく「今、ここ」に面白さを見出す気持ちとゆとりが生まれたからではないでしょうか?

こうした流れは、しかし17世紀の終わりには下火になります。宗教などの古典的な主題が回帰したり、風景画でも、現実観察に基づいたものではなく理想化された/別世界的な風景が描かれたりするようになるのです。続く18世紀にはフランスなどでも廃墟趣味が流行り、さらに、時代が下ると軽やかではかなげでどこかあの世的なロココ趣味が台頭してきたということを考えると当然なのかもしれませんが、現代に生きる者から見ると時代が逆戻りしてしまったかのようで少し残念な気がします。

もちろん、17世紀の時点では21世紀に至るまでの道筋としてあまたの方向が可能性として眠っていた訳であり、今がこんな風でなければ17世紀オランダ絵画の後に続く古典主義的な絵画も保守派の揺り戻し的なものとは映らなかったのかもしれません。

逆に、現にある「今」から振り返ることで価値が増されるのがフェルメール。少し前、某メディアアーティストの方が「フェルメールの画は具象を描いていても抽象なの。だから現代人でも退屈せずに見られるの」と語っており、そのときは「ふーん…」と思いながら拝聴していたのですが、今回改めて『水差しを持つ女』をじっくり見て納得かつ感動しました。

森村泰昌が、3次元のセット(舞台装置、的な意味での)と自らの体でフェルメールの画の世界を再現した作品の中で証明したように、フェルメール作品はそもそも普通のリアリズム絵画ではありません。その画には、錯視を利用したいたずら? と見える箇所が実際にありますし、ピンホールカメラなどを利用して描いたと仮定しなければ説明がつかない箇所が存在するという指摘もあります(なお、写真らしさ=絵画的リアリズムの等式は成り立ちません。これについてはいずれ考えがまとまったところで書いてみたいと思います)。

私が『水差し〜』を見て思い浮かべた言葉は

色面構成

要素

平等

バランス

という言葉でした。フェルメールはおそらく、具体的な何かを描こうとしていたというより絵画平面を構成しようとしていたのではないか(極端にいえば、描かれている主題は画を成立させるための方便に過ぎなかったのではないか)。そうであるとすれば、主題にピントを極度に合わせるような描き方は不可能であって、絵画を構成する全ての要素は互いに完全に平等に、とは行かなくとも平等に近いものとして扱われ、同程度に慎重に—あるいはいい加減に—配置されなければならない。

それを証し立てるかのように、同時代の他のオランダ画家の作品であれば主題となるべき人や物に(それらを実際にひときわ明るく描くことで)「スポットライトを当てる」のですが、フェルメールに絵画にはそれがないか、あるとしても慎ましやかです。

「バランス」については、たとえば…

これは展覧会記念グッズで、フェルメールの画を図案化してキャンヴァス地のトートバッグにプリントしたものです。これでは切れてしまっていますが、原画の右上方には黄色みを帯びた世界地図らしき掛け軸状のものが掛けられ、その下には青い布の山が無造作に置かれています。掛け軸の軸はドレスと同じ青。また、原画では窓硝子はかなり青みを帯びており、一方で、女性の胴衣および顔はもう少し黄みが抑えられ彩度が低くなって(白んで)います。

冴え渡る青の四角形と淡い黄色の三角形が絡み合うように配置されたところに、アクセントとなる赤が入れられているというこの構成は、(たとえばルネサンス期のそれのような、彼の時代から見ても伝統的な)美の規範に照らしてデザイン性が高いのは勿論、3と4という数字それ自体にも文化的・宗教的な意味がありそうです(3と聞けばつい三位一体という言葉に結びつけてしまうのは安直に過ぎるでしょうか?)。

とてつもなく新しいと同時に伝統的であり、同時代的でもあるような絵画の達成。新しさを是とする19世紀後半以降の美術界には生きていなかったフェルメールは、けれどそんなことをしているという自覚などさらさらなかったに違いありません。

最後に、余談(余画像?)ですが、私が過去に行なった具体物の抽象化の例を挙げておきます。

Girlyな色調のジャクソン・ポロック!

…ではなく、ツナオニオンキューカンバートーストの具(爆)。

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